223インタビュー
2011/11/30

大塚茂夫さん (ナショナル ジオグラフック編集長)

shigeo_otsuka.jpg

—— 大塚さんにとって富士山とはどんな存在でしょうか?
私は1年間、アメリカオレゴン州のユージンという町にあるオレゴン大学に留学していました。
オレゴンにはフッド山(Mount Hood/標高3,429㍍)という州では最高峰の山があるのですが、
その山のことを地元に住む日本人や日系人は「オレゴン富士」と呼んでいるんです。
日本ではスノーボードの発祥の地としても有名です。
日系人の中には移民としてこの地に住まわれた方も多いと聞いています。
そんな人たちが心の拠り所にしたのが、マウント・フッドだったのでしょう。


—— 日本の象徴である富士山を遠く離れた異国で、想い、
もしかしたら二度と帰れない故郷に想いを馳せていたということですね。


shigeo_otsuka01.jpg

私は、アメリカで祖国を想う日本人に富士山の心を教えてもらった気がします。
私自身も、そんなマウント・フッドにかなり癒してもらいました。
また、高校は親元を離れ、富士山が良く見える伊豆の韮山という町で下宿生活をしました。
登下校時、富士山が田方平野の向こう側にそびえている、
偉大な存在が背中を押してくれているようで頼もしかったです。
常に富士山は当たり前にそこにあるわけです。
その「当たり前感」に随分と救われました。


—— そして現在、ナショナル ジオグラフックの5代目編集長として活躍している大塚さんですが、
かつて富士山の企画に関わられたとお聞きしました。

はい、2010年の1月からの新連載を担当しました。
「日本うるわし列島」というタイトルで、
作家の池澤夏樹さんのエッセイと日本を代表する写真家の写真で、
各地の自然を紹介していこうという企画でした。

その第一回目が「富士山」でした。
写真は大山行男さんの作品を掲載しました。
そのエッセイで池澤さんの視線は富士山をスターに例え、
「富士山を幸運続きの山だ」と称しているのが印象的でした。
池澤さんは、その日本のスターである富士山との付き合い方には、
「登る」という選択肢と「登らない」という選択肢があると書かれています。
「登る」という行為は頂点を極める喜びがある。
しかし、「登らない」という行為は、
「敬って、遠ざかる、遠くから、見ることによって、この稀有な山を賛美する」と池澤さんは仰っていました。

実は私自身、富士山には五合目までしか行ったことがないんです。
スターとして、遠くから眺めて、「憧れている」と言う感じでしょうか。
この時の取材では、池澤さんと一緒に富士山周辺をドライブしました。
改めて、その美しさと大きさを実感できました。


—— 個人的には、2002年の8月号で「日本のシンボル 富士山」特集が好きです。
表紙がガリバーと富士山という組み合わせだったので、強烈なインパクトで良く覚えています。


shigeo_otsuka02.jpg

表紙となった写真は2001年に閉鎖された『富士ガリバー王国』で撮影されたものです。
ガリバーの不気味な顔と富士山との不思議な取り合わせですよね。

特集ももちろん面白いのですが、
連載コラム『日本の百年』もこの号は富士山にまつわる記事が掲載されていて、面白いんです。
1899年に初代の常任編集長になったギルバード・H・グロブナーと
浅間大社奥宮の宮司との富士山登山のツーショット写真が掲載されています。
彼はナショナル ジオグラフィック協会の2代目会長である科学者グラハム・ベルに抜擢され、
雑誌に写真を多く掲載するようになり、現在のビジュアル誌のスタイルを誕生させた功労者です。

shigeo_otsuka03.jpg


—— 現在、富士山は世界遺産を目指しています。
最後に、世界遺産を目指す富士山にコメントを頂けますか?

先の池澤先生のエッセイではないですが、登る楽しみ以外の眺める楽しみもあってもいいですね。
目の前に素晴らしい山があれば登りたい、と思う人がいて当然 だと思います。
しかし、敢えて、登らないことも大切な気がします。
自然を守るという観点から言えば、ここ数年、7月から8月のシーズンに30万人ほどが富士山に登っているそうです。
登山者数の増加が自然環境に負荷となっていないか、考えてみるいい機会かとも思います。
これほど、自然的、文化的、歴史的な観点からも、類稀な山はありません。

世界遺産になるということは、もちろん意味のあることですし、喜ばしいことだと思います。
ただ、世界遺産になるからには、富士山の自然、文化、歴史を守るのだと言う覚悟が必要でしょう。
世界遺産になると言うことは、単に観光地としての世界的なお墨付きをもらうという意味ではないのです。
世界遺産を目指すことは、日本人にそんな覚悟を促すきっかけになると思います。

これからも富士山同様、
ナショナル ジオグラフィックも皆様に愛される雑誌を目指しますのでよろしくお願いします。



ナショナル ジオグラフィク

shigeo_otsuka04.jpg 毎月1日発行(年12冊)
980円(税込)

購読料金(税込)
1年(12冊)9,000円
3年(36冊)22,950円

問合せ先
日経ナショナル ジオグラフィック社読者サービスセンター
フリーダイヤル:0120-86-7420(平日9:00~17:00)

日本語版 公式サイト
http://nng.nikkeibp.co.jp/nng/index.shtml

 

11月30日 . 2011 at 10:00 午前
富士山を観る
参加する
フジトモ
富士山基金