新津きよみさん

小説家
新津きよみ(にいつきよみ)
1957年長野県大町市生まれ。青山学院大学卒業後、旅行会社に就職。その後、商社や損保会社などの派遣OLをしながら小説講座に通い、1988年角川書店よりデビュー。
ミステリ、サスペンス、ホラー、三つの要素が渾然一体となった独特の作風で高い評価を得る。日常に寄り添う恐怖の描き方、女性ならではのきめ細かな心理描写、のびやかな物語世界は多くの読者を魅了している。
映像化された作品も多い。『女友達』『愛読者』(角川ホラー文庫)、『正当防衛』(徳間文庫)、『二重証言』(ハルキ文庫)などのほか、『トライアングル』(角川文庫)は、フジテレビ・関西テレビ系で連続ドラマ化(2009年)された。『ふたたびの加奈子』(ハルキ文庫)は、『桜、ふたたびの加奈子』として映画化され(栗村実監督、広末涼子、稲垣吾郎主演)、2013年全国公開された。
代表作に、『緩やかな反転』『ダブル・イニシャル』(角川文庫)、『ひとり』『意地悪な食卓』『最後の晩餐』(角川ホラー文庫)、『彼女の命日』『指名手配 特別捜査官七倉愛子』(ハルキ文庫)、『巻きぞえ』『帰郷 三世代警察医物語』(光文社文庫)、『アルペジオ』『スパイラル・エイジ』(講談社文庫)、『殺意が見える女』『孤独症の女』(徳間文庫)、『愛されてもひとり』『記録魔』(祥伝社文庫)、『ユアボイス』(PHP文庫)などがある。
日本ペンクラブの環境委員、広報委員も務めている。
北アルプスの山麓、長野県大町市に生まれ育った私の日常には「山」が溶け込んでいました。とはいえ、私の中の山のイメージは、「山脈」であって、「山」ではなかったのです。
「山」は、そこにデンと聳えたっていなければいけません。悠々と、堂々と、優雅に、誰にも邪魔されずに。
そして、その山は、やはり富士山なのです。
山国に育ちながら、私は心のどこかで富士山をライバル視していたのかもしれません。連なった北アルプスの山には登るけれども、富士山には登らないというふうにして遠ざけてきました。
しかし、それは、富士山を畏れ多い存在として、遠くから見守り、あこがれ、尊敬してきた姿勢の表れと言えるでしょう。
富士山が世界遺産に認定され、私たちに親しみやすい存在になったとしても、つねにあこがれを、尊敬の念を抱き続けて、守っていかねばならないと思います。
富士山には、永遠に輝き続けてほしいからです。