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時空の旅 その1(連載vol.493)

旅には色々な旅があるが、想像の旅もその一つ。

まだ訪れたことのない場所を地図や写真を眺めては思いを巡らす。そしてその旅に期待を膨らませる。今なら動画でいくらでも旅することができるし、最近ではバラエテイ番組で人気の路線バス旅の旅を見ては、旅をした気になっている自分がいる。

そんな旅を楽しみつつ、最近、発見したのがこのタイトルにある「時空の旅」。

時空とは時間と空間を合わせて表現する物理学の用語らしいが、ここでは単純に過去に戻っての旅を楽しむことにする。

この絵の作者は鍬形惠斎(くわがたけいさい)。

生まれは明和元年(1764年)というから、江戸時代第十代将軍、徳川家治の時代に活躍した絵師である。

まずこの奇抜な発想、「空から見たら日本はどんな風に見えるか?」とこの絵を描いている。

今なら飛行機もあるし、さらにドローンもあって、いかなる想像もそれを可視化することができる。でもこの時代、鳥瞰図はあれど、それはあくまでも鳥目線。このように大きな俯瞰はまさに想像力の賜物以外の何物でもない。

それにしてもこの大胆な構図、この画像では富士山を中心にトリミングしてしまっているが、北海道から九州までが網羅されている。

写真でこんな構図を撮影しようとしたら広角では無理だし、魚眼レンズの使用になるのだろうか? 惠斎はもともと浮世絵師であったという。その浮世絵ならではの豪快さがこの絵から溢れているようにも見える。

この時代、今のように気軽に旅に出られることはない。旅は一生のうちの大きなイベントだったわけだし、この絵を見ながら、人はまだ行ったことのない場所を想像したんだろう。

作者 鍬形惠斎(1764-1824)

題 日本名所の絵(41.8×56.4)

出典 旅する江戸絵画(著者/金子信久)ピエブックス刊

所蔵 三井文庫

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