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時空の旅 その3(連載vol.495)

かつて塔やタワーを巡る旅をしていた頃がある。自らを「タワー評論家」と称し、日本中を塔巡りの旅に明け暮れた。

東京タワーはもちろん以前にも登っていたが、改めて東京タワーに近づこうと坂を登りながら、東京は坂だらけだなと汗をかいた。

その後「全力坂」(テレビ朝日/毎週月曜~木曜 深夜1:20~)という番組が始まり、タレントが東京にある坂を全力疾走するという、シンプルかつ謎すぎる様子を見て、やっぱり東京は坂の町だと実感した。

そんな坂の町東京だが、御茶ノ水にほど近い場所にある昌平坂(しょうへいざか)はその名を知らなくても、「地下鉄が一瞬だけトンネルから現れるあたりだよ」というと、「ああ、あの神田川ね」というぐらい有名な場所ではないだろうか?

その江戸の景色を浮世絵師、歌川国芳(うたがわ くによし)が残している。

幕府の財政が逼迫し世情が不安定になり、天保の改革(1830- 1843)が始まると江戸は閉塞感が広がる。その暗い社会状況を打破するようなパワフルな武者絵やユーモラスな戯画を描いて大衆の喝采を浴びたのが国芳だと言われている。

絵に添えられている文は、「道草の道の左りは駿河台、ふじはむかふに笑ふ春の日」という万花亭応山の狂歌。国芳がこの絵を描いたのは今頃の季節ですかね?

 

作者 歌川 国芳(1798-1861)
題 東都富士見三十六景 昌平坂乃遠景(大判)
出典 旅する江戸絵画(著者/金子信久)ピエブックス刊
所蔵 東京都江戸東京博物館

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