遠藤湖舟さん

写真家
遠藤湖舟(えんどう こしゅう)1954年長野県生まれ。悠久の星空、水面に映るゆらぎなど、日常に存在する「美」を独自の審美眼で捉える。幼少期に触れた野山や星空が「美」の原点となる。2006年から個展を開催し、2007年には写真集「宇宙からの贈りもの」(講談社刊)を出版。日本画家平山郁夫氏から「美は、すぐそばにあることを、この写真集は語りかけてきます。時を超えた"美"が、そこにあります」という推薦文が寄せられた。2015年髙島屋で大規模な巡回写真展(東京、京都、大阪、横浜)を開催。また、龍村美術織物とのコラボレーションで錦帯5作品が制作された。

【個展】
2006年『Photomelos 光の旋律Ⅰ』
(アプリコホール/東京)
2006年『Photomelos 光の旋律Ⅱ』
(SKホール/東京)
2007年『Photomelos 光の旋律Ⅲ』
(アプリコホール/東京)
2007年『宇宙の星、地球という星』(新宿野村ビル/東京)
2007年『Photomelos 光の旋律Ⅳ』
(松本市民芸術館/松本)
2007年『遠藤湖舟写真展』
(八十二銀行ギャラリー/松本)
2008年『Fusion field』
(のざわギャラリー/京都)
2008年『宇宙からの贈りもの』オーケストラとのコラボ
(代々木オリンピックセンターホール/東京)
2009年『宇宙からの贈りもの』オーケストラとのコラボ
(代々木オリンピックセンターホール/東京)
2014年 葉山芸術祭参加企画 遠藤湖舟写真展『「そこにある美」立ち止まり、見つめて』(葉山文化園/神奈川)
2015年『Victor Hasselbladへのオマージュ』(ハッセルブラッド・ジャパンギャラリー/東京)
2015年 遠藤湖舟写真展『天空の美、地上の美。〜見つめることで「美」は姿を現す〜』(日本橋髙島屋、京都髙島屋、大阪髙島屋、横浜髙島屋巡回)

【出版】
2007年『宇宙からの贈りもの』(講談社刊)
2010年 かがくのとも10月号『ひるまのおつきさま』(福音館書店刊)

【その他】
2014年 婦人画報2015年新年号巻頭特集にて、遊牧民の冬支度を訪ねた「モンゴル、羊と生きる」を撮影
2015年 龍村美術織物とのコラボレーションにより錦帯5作品制作
富士山にはボクのお気に入りの場所がある。

標高は1600m、富士山を間近に見上げる裾野に位置する。
広く開けた場所で、そこに寝転がって、ボクは一晩中、星を見ている。
目の前にドンと構えた富士山から銀河が昇り、星が流れ、人工衛星がゆっくり移動して行く。
雲が湧き、星が滲む。
雲が去り、また全天に星の輝きが戻る。

山中ひとりで星を見ていても、けっして寂しくはない。
子ダヌキがかわいいお尻を揺らしながら駆けて行くし、子ギツネなどはボクの存在にお構いなく、傍らをとっとっとと横切って行く。
雄ジカが近づいてくると、大地を踏む重量感溢れる音に、ボクは少々緊張する。
そんなときは指笛をピーッと鳴らし、「こっちに来るな」と、彼らと同じように縄張りを主張する。

夜が更けるに従い、静けさがやってくる。
静けさの中では、星々は輝きを増し、大地からは微細な気配が浮かび上がり、そして天は夜露を降らせる。
そんな素敵な夜の後には、また素敵な夜明けがやってくる。

都会の光の中では見られない澄んだ色彩が東に現れ、夜がそれに染まって潮が引くように消えて行く。
明るさを増した山際から、光の矢が放たれ、力強い太陽が姿を現す。

東京の我が家は多摩川に近く、堤防まで出れば丹沢の峰々の向こうに富士山は見える。
都心のビルの高層階では、富士山は日常の風景の中にある。
江戸の人々にとっても富士山は日常的なランドマークだったろう。
今では車で2時間も走れば富士の裾野に着いてしまう。
日常にあるということが、富士山の素晴らしさのひとつなのだろうとボクは思う。
たぶん、人間の営みに近いからこそ、「文化遺産」なのだ。

文化遺産というものはその対象と人間との関わりが強く問われるわけで、両者の良い関係を人間が作って行かなくてはならない。
さすれば、ボクらは知恵を精一杯、働かさねばならない。