−みなさん、今日は何をされているんですか。
御殿場市内にある国立中央青少年交流の家から頼まれた屋外設置用ベンチを作っています。定例の作業日は週1日ですが、3月中に25セット納品しないといけないのに、今のままではとても間に合いそうにない。それで、日曜の今日も特別に作業をしています。あとでお話ししますが、会の自主財源を確保する、大事な作業なんですよ。
−まずは会の成り立ちから教えてください。活動を始められたのは1996年だそうですね。
そうです。富士山麓の風倒木、間伐材を輪切りにして植木鉢を作り、それにどんぐりを植えて、大きくなったら植木鉢ごと植栽する、という自然循環型の体験教室から始まった活動です。"土に還る木"の由来はその鉢植えです。NPO法人 土に還る木 森づくりの会の設立は2000年で、昨年、15周年を迎えました。現在会員は38名、ほとんどが65歳以上のシニア世代です。
−小松さんは会の設立当時から活動に関わっていたんですか。
私は2006年から参加しました。勤めていた会社で長いこと環境事業に取り組んでいまして、環境問題について自分なりに勉強もしていたこともあって、前の代表に誘われ、この活動に取り組むことになったんです。
−会ではどんな活動をされているんですか。
大きく分けると、森づくり、木工などの体験教室、富士山麓の自然観察、自然木を利用した木工品の製作・販売です。森づくり活動は、無償でお借りしている御殿場市内の個人の所有林、学校林、企業等が保有する森などで、市民の方たちや地元のお子さんたちだけでなく、他の地域から御殿場を訪れた学生さんをはじめとする様々な方たちと一緒に行っています。具体的には、クヌギやミズナラなど広葉樹の苗木を育てたり、その苗木を植木鉢に移して植栽したり、森を維持するために下草を刈ったり、ですね。森には戦後植林されたスギやヒノキが多いんですが、クヌギやミズナラなどの苗木を植えて、広葉樹の森にして行こうと考えています。森を再生しようとしているんですよ。
−"森の再生"、ですか。
そうです。人間も楽しめて、いろんな動植物も棲息できる"共生の森"を目指しています。体験教室では、間伐材などを使って椅子やマガジンラックや植木鉢を作ったり、しいたけを育てるホダ木を作ってもらったりしています。例えば植木鉢は、ある程度の下準備をこちらでしておいて、ノミやノコギリやハンマーを使って、参加者に仕上げてもらう。そういう道具を初めて使う人も多いので、最初にこちらで説明もしますし、困った時にはスタッフが力を貸しながら作りますが、みなさん、すごく楽しんでますよ。学校では今、ほとんど刃のついた道具は使わせないようですけど、木工教育は必要なんじゃないかと思いますね。去年1年間に、森づくりの活動と体験教室を61回開きましたが、約4000人の方が参加されました。
−かなりの人数ですね。
興味を持っている方が多いんですよ。富士山が世界文化遺産になって、国立中央青少年交流の家に横浜や東京方面からたくさん子どもたちが来るようになったことも大きいですね。去年は国立中央青少年交流の家だけで20回、木工体験教室をやりました。森づくりや木工教室と並行して行っているのが、自然観察です。絶滅危惧種などの希少動植物の存在を知ってもらったり、実際に観察することで、御殿場の森の素晴らしさ、富士山の恵みの豊かさを感じてもらいたいと考えています。
−最初に話が出た木工製品の製造と販売についても教えてください。
風倒木や森林整備による間伐材などの有効利用を普及させるためと自主財源確保のためなんですよ。昨年12月にも、御殿場に来た福島県いわき市の児童養護施設のお子さんたちに我々の木工教室を楽しんでいただいたんですが、そういう社会貢献活動にもっと力を入れていくためには、それなりにお金がかかります。下準備のための自動カンナ機等の工作機械も必要ですし、ボランティアで活動してくれる会員の方たちにせめて交通費等くらいは会の方で用意したい。こちらの工房も、建設会社さんから借りているので、費用がかかりますからね。活動を長く続けるためには、自主財源の確保は重要なんですよ。
−富士山の麓だからとくに風倒木が多い、ということもあるんですか。
もともとスギやヒノキは垂直に根が伸びるので強風に弱い上に、この辺の土壌はスコリアという火山灰のようなものでできているので、木が育ってくるとその重量に耐えきれなくて木が倒れてしまう、というのはありますね。広葉樹は地面に平行に根を張るので、広葉樹の森になると風倒木は減るんじゃないかと思います。間伐材や風倒木といった林地残材が多いのは、木材そのものの単価が今、非常に安いからです。だからといって産廃業者のところに持って行くと、処分にお金がかかる。私たちの会に持って来ると林地残材搬出奨励モデル事業の助成金が受け取れるので、伐採業者のみなさんがここに持って来てくれるんです。こちらで取りに行く場合もありますけどね。そういった木が木工教室の材料になったり、木工製品の材料になっているわけです。
−どんなものを作っているんですか。
テーブル、ベンチや椅子、花器、食器などいろいろです。間伐材を使ったブランコなんかも、作ったことがありますよ。注文はホームページを通して全国から来ています。家具類は、家具屋では扱ってないような、自然木の風合いを活かしたものを作ってますね。作品によっては大工さん以上の腕前を発揮される会員の方もいるんですよ。森づくりと物づくりを通して、社会に貢献していることにやりがいや喜びを感じて、みなさん、熱心に活動してくださっています。
−小松さんは地元の出身。富士山はどんな存在ですか。
小さい頃から、いつでも朝夕に眺めることができましたから、特別なものとは思っていませんでした。ただこの会の活動を始めて、富士山はすばらしいな、と。森づくりと富士山は切り離せないし、麓の森が豊かなのは富士山の恵みですからね。また、富士山の恵みを受けた御殿場の歴史についても話す機会が多いので、地元の歴史や文化にも興味を持つようになりました。調べていると、NHKの「あさが来た」でも知られた広岡浅子や西園寺公望公の別荘があったとか、いろんなことがわかってきましてね。調べたことは3年前から発行している冊子「富士山麓の自然」(1800部を御殿場市、裾野市、小山町の教育委員会や一般希望者に配布)にまとめて載せたり、会のHPで紹介したりしています。地元の人は意外と地元の歴史を知らないので、もうちょっと歴史面の紹介をしたいと思っています。
−最後に、小松さんが考える富士山の魅力を教えてください。
海抜ゼロの駿河湾から山頂の3776メートルまでが富士山なわけですが、その標高差の中に様々な動植物が生息して、希少な動植物も多い。その自然の豊かさが一番の魅力だと思います。そういった環境を守るために、私たちも活動しているわけです。富士山頂を目指すのも楽しいと思いますが、山頂だけでなく、麓の豊かな自然にもぜひ目を向けていたきたいし、魅力的な森づくりをこれからも進めていきたいですね。
1944年 静岡生まれ 高校卒業後、某電気メーカーに40数年勤務し、在社中は経理部門や環境事業に取り組む。62歳で退職後、2006年からNPO法人 土に還る木 森づくりの会の運営に関わる。
HP http://tsutinikaeruki.org/