みんなで考えよう

富士山インタビュー

結婚式は山頂の奥宮で。そのご利益か、夫婦喧嘩はまだ一度もしてません(笑)

前田友和さんの山梨自由研究歴は約13年。
その研究成果は2013年1月から毎日、自身のFacebookで“山梨トリビア”として公開中です。
山梨では知る人ぞ知る“山梨自由研究家”で、この春には甲斐市立竜王図書館の2階展示ホールで
「『へぇ〜っ!』がとまらない! みんなが知らない山梨トリビア」展も開催されました。
前田さんの物腰と口調はあくまで柔らかでしたが、その奥では熱い郷土愛が脈打っているのでしょう。
取材の終わりには、「あんこのなめらかさが評判」という前田さんの地元・都留市の銘菓“八端最中”を手渡してくださいました。

写真:井坂孝行/取材・文:木村由理江

健康に長生きして“山梨トリビア”の1万個超えを目指したいですね

−山梨に関する自由研究を始めたきっかけを教えてください。

 2007年に“夢甲斐塾”という学びの会に参加したことがそもそものきっかけです。松下政経塾の副塾長も務められた、当時の塾長だった上甲晃先生が僕ら塾生に最初にされた甲府城のオベリスクに関する質問に、答えられなかったんですよ。関西からいらしていた上甲先生がご存知のことを、山梨で生まれ育った自分が知らなかったのが悔しくて、山梨についてもっと自分でしっかり調べていかないとだめだ、と思い知らされたというか。その後、2013年1月から“山梨トリビア”の投稿を始めました。

−トリビアの数は今、何個ですか。

 トリビアの数は2700個を超えています。最初は100個投稿したら終わろうかな、と思っていたんですけど、おもしろいね、がんばってね、とみなさん言ってくださるので、いまだに続いています。

−とはいえ調べるのは大変なのでは?

 最初の頃は図書館とかインターネットでがんばって調べていましたけど、投稿を続けていると「前田くん、こんなの知ってる?」って教えてくださる方がたくさん出てくるんですよ。それを自分で調べるとさらに知らないことが増えていくので、ネタには困らないですし、最近は歯磨きをするような感じで日常的に調べています。できるだけ健康に長生きをして、“山梨トリビア”の1万個超えを目指したいですね。

−山梨を研究し続け、発信することで目指しているのはどんなことですか。

 僕は専門家ではないですから、どんどん脇道に逸れながら、そのなかで新しい発見をしていくというスタンスなんですよ。そのスタンスで一生学び続けたい、と思っています。今はインターネットが使える時代ですから、明治時代とかと違って学んだことを多くの人と瞬時に共有できる。その共有が、僕の人生が終わった後もずっと先まで繋がっていくことが理想です。僕自身、同じように山梨について学び、研究した先達からバトンを受け取ったと勝手に思っているので、誰かにバトンを受け継いで、それが何百年後かにまで続いていけばいいな、という意識でやっています。

グアテマラのアグア山は、形が似ているだけでなく標高もわずか16m差

−富士山に関するトリビアをいくつか教えてください。

 反響が大きかったのは、“富士山麓がディズニーランドの候補地だった”というトリビアですね。ご存知のように今は千葉の浦安にありますが、富士スピードウェイのある静岡県の小山町などに誘致しようという動きもあったんです。最終的に、首都圏からのアクセスの良さなど、いろいろな要素を総合的に判断して浦安が選ばれたそうです。ミッキーの背景に富士山が見えていたらすごくインパクトがあったでしょうけど、環境負荷を考えたら、誘致合戦に負けたことも悪くはなかったのかな、と個人的には思っています。

−そんな経緯があったなんて知りませんでした。

 他に、僕がおもしろいなと思ったトリビアは・・。日本各地にご当地富士があるのは、みなさん、ご存知だと思いますが、調べてみたら世界各地にご当地富士や富士山に似た山があるんですよ。僕が調べただけでも88座。なかでも印象的なのをいくつか紹介しようと思います。まずは“グアテマラ富士”と呼ばれているアグア山。形が似ているだけでなく標高も3760mと富士山と16mしか違わない。ネットで検索をすると、アグア山の麓に町が広がり、さらに手前に十字架が立っている画像があって、新倉山浅間公園からの構図によく似ています。富士吉田とグアテマラがパラレルワールドになっているような感覚になる不思議な画像でした。

−姿形以外にも類似点があるんですね。

 そうなんです。“チリ富士”と呼ばれているオソルノ山も近くに湖があって、画像によっては富士五湖を入れ込んだ写真か、静岡県の清水辺りから写した写真のようにも見えます。標高は2660mと富士山より1000mくらい低いんですけどね。それからチリとボリビアの国境にあるリカンカブール山。形がきれいなうえに、近くにラグナベルデという、明るい青緑色の水をたたえた湖があって、手前に湖を入れ込んだ画像は非常に印象的ですし、どこか山梨から見た富士山に似ています。そしてアラスカにあるシシャルディン山。地球上で最も美しい円錐形の山と言われていて、富士山以上に形が整っていますが、形が整いすぎているのと雪で覆われて真っ白なせいか、ちょっと情緒に欠けるというか。

−整いすぎてない富士山の方が、情緒ある、と?

 はい。そういうのは、富士山のことだけを調べるのではなく、富士山以外のことも調べて、対比して初めて見えてくることですね。山梨について学ぶなかでも言えることですけど、幅広く調べていくことの大切さを感じます。最後に紹介するのは、僕が一番好きな、トルコにある小アララト山。アララト山は、聖書のなかでノアの方舟がたどり着いたとされる山です。僕がネットで見つけた画像は隣国のアルメニアから撮ったもので、大小二つのアララト山の手前に葡萄畑が写っているんですよ。アルメニアがあるコーカサス地方は、葡萄の原産地なんですね。その画像を山梨の人に見せると、「これ、勝沼じゃない?」って(笑)。調べてみると世界中のいろんなところに富士山があり、山梨に似た風景がある。すごくおもしろいし、不思議な感覚になりますね。

-調べてみるものですね〜。富士山に絡んで、最近、前田さんが興味を持っているものがあったら教えてください。

 今、読んでいる『神皇記(じんのうき)』という、1921(大正10)年に書かれた宮下文書(みやしたもんじょ)と呼ばれる文献のダイジェスト版です。これには日本の神話である『古事記』や『日本書紀』とはだいぶ違うことが書いてあって非常におもしろいですよ。例えば、日本の神話に最初に登場する天之御中主神より前に神々がいたとか、天つ神の都である高天原は富士山の麓一帯にあったとか。他にも、木花咲耶姫は、夫である瓊瓊杵尊に貞節を疑われたことにショックを受け、火照命、火須勢理命、火遠理命の3人の皇子を産んだ後に、鹿に飛び乗って富士山頂まで駆け上り火口に飛び込んだ、と書いてあって、これも、一般的に浅間神社で語られている話とは違います。宮下文書は一時、大ベストセラーになるものの、その後、“偽書”とレッテルを貼られてしまうんですけどね・・。世界にはいろんな有名な山がありますが、富士山は伝説とか神話がとても多い。その分厚さは世界トップクラスだと思いますし、富士山だからこその分厚さだと思います。

富士山は僕にとって“身近にいる友だちのような神様”です

−前田さんは富士山頂で結婚式を挙げられたそうですね。

 2010年8月、ちょうど10年前ですね。僕は都留市出身で、子どもの頃から初詣は北口本宮冨士浅間神社でしたし、母が宮崎の高千穂出身だったこともあって、富士山とか木花咲耶姫にはずっと親近感を感じていたので、結婚の誓いは富士山の神様の前でできたらいいな、と思ったんですよ。できればたくさんの親戚の前で式を挙げる気恥ずかしさから逃れたい、という気持ちもあって(笑)、妻と相談して山頂の奥宮で式を挙げることに決めました。妻はそれまで富士山に登ったことがなかったので、事前にちゃんと高所順応して行ってきました。二人だけの結婚式でしたけど、とても思い出深いものになりましたね。

−富士山頂で結婚式を挙げたことは、お二人にどんな影響を与えていますか。

 奥宮で式を挙げたご利益なのかどうかわからないですけど、結婚してから今まで一度も喧嘩をしたことがないですね(笑)。高山病や悪天候で結婚式が流れてしまうかもしれないというリスクを背負いながら、二人で協力して山頂まで登り、山小屋で一泊した翌朝、ご来光を見てから結婚式を挙げて帰ってくるという、その一連の共同作業は、この先、修羅場になった時に効いてくるのかもしれないです。もし喧嘩をしたら、富士山を見て頭を冷やします(笑)。

−これまで富士山に登った回数は?

 結婚式を含めて10回弱です。毎回景色が違って、一回たりとも同じ登山がないのがおもしろいですね。大変なこともいろいろありますが、自分自身のことを振り返る時間や深く考えるきっかけが得られるから、行って帰ってくるだけで世界が違って見える。県外に出なくてもすごく貴重な旅ができるという感覚がありますね。実は結婚から10年経った今年、久しぶりに登ろうと思ってたんですよ。コロナの影響で難しくなってしまい、残念です。

−富士山はどんな存在ですか。

 僕にとっては、“身近にいる友だちのような神様”ですね。小さい頃からずっと見ていて愛着があるので、崇める、という感じではないというか。地元の八幡神社を“八幡さん”と呼んだりする感覚に近いです。いつも見られているので、悪いことはできないな、とも思っています(笑)。

前田友和
まえだともかず

1980年 山梨県都留市生まれ 都留市の高校を卒業後、山梨大学教育人間科学部生涯学習課程芸術運営コースへ進学。大学1年の夏には、五合目のおみやげ屋さんで住み込みのアルバイトも。2007年から地元・山梨に関する自由研究を始め、2013年1月以来、毎日自身のFacebookに“山梨トリビア”を投稿。山梨の歴史や歴史的人物を紹介するナビゲーターなど、山梨自由研究家として幅広く活躍。2017年11月以来、読売新聞山梨版コラム「ホームルーム」を月一で担当している。グラフィックデザイナーであり、中高生を対象にした家庭教師でもある。

前田友和氏Facebook:https://www.facebook.com/tomopop2

取材協力:甲斐市立竜王図書館
(HP:https://kai.library2.city.kai.yamanashi.jp/

「『へぇ~!』がとまらない! みんなが知らない山梨トリビア」甲斐市立図書館展示案内(WEB版)
パート1
https://youtu.be/FH7XPCH1NQM

パート2
https://youtu.be/ueCEhxmqK7c

パート3
https://youtu.be/DZtmip8fdRg

インタビューアーカイブ
山田淳富士登山のスペシャリスト
田中みずき女性絵師
青嶋寿和マウントフジ トレイルステーション実行委員長
森原明廣山梨県立博物館学芸課長
渡邊通人富士山自然保護センター自然共生研究室室長
田近義博富士山ツーリズム御殿場実行委員会事務局長
中島紫穂富士山レンジャー
植田めぐみフリーカメラマン
外川真介上の坊project代表・天下茶屋三代目
山本裕輔印伝職人・印伝の山本三代目
金澤中シンガー・ソングライター
池ヶ谷知宏goodbymarket代表・デザイナー
田代博一般財団法人日本地図センター常務理事・地図研究所長
宮下敦成蹊気象観測所所長
加々美久美子御師旧外川家住宅館内ガイド&カフェ「北口夢屋」オーナー
土器屋由紀子認定NPO法人富士山測候所を活用する会理事・江戸川大学名誉教授 農学博士
福田六花医学博士・ミュージシャン・ランナー
舟津宏昭富士山アウトドアミュージアム代表
小松豊特定非営利活動法人 土に還る木 森づくりの会代表理事
菅原久夫富士山自然誌研究会会長・富士山の自然と花を観る会主宰
新谷雅徳一般社団法人エコロジック代表理事
堀内眞富士山世界遺産センター学芸員
杉山泰裕静岡県文化・観光部理事(富士山担当)
前田宜包富士山八合目富士吉田救護所ボランティア医師・市立甲府病院医師
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今野登志夫陶芸家
遠藤まゆみNPO法人三保の松原・羽衣村事務局長、羽衣ホテル4代目女将
佐野彰秀バンブーアート作家
オマタタツロウ音楽家・画家
高橋百合子富士吉田市教育委員会 歴史文化課 課長補佐
内藤恒雄手漉和紙職人・駿河半紙技術研究会会長
太田安彦一般社団法人 ヨシダトレイルクラブ代表理事・富士吉田市公認富士登山ガイド
影山秀雄機織り職人 手機織処 影山工房主宰
江森甲二裾野市もののふの里銘酒会会長
中尾彩美富士山ビュー特急アテンダント
渡辺義基渡辺ハム工房
古屋英将株式会社ミロク代表取締役社長
井出宇俊井出醸造店・井出酒類販売株式会社営業部
望月基秀製茶問屋 株式会社静岡茶園 常務取締役
関根暢夫・ふじゑさん夫妻ふじさんミュージアム 手話ガイド
御園生一彦米久株式会社代表取締役社長
rumbe dobby手織り作家
小山真人静岡大学 教授 理学博士
勝俣克教富士屋ホテル 河口湖アネックス 富士ビューホテル支配人
漆畑信昭柿田川みどりのトラスト、柿田川自然保護の会各会長
日野原健司太田記念美術館 主席学芸員
渡井一信富士宮市郷土資料館館長
大高康正静岡県富士山世界遺産センター学芸課准教授
渡辺貴彦仮名書家
望月将悟静岡市消防局山岳救助隊員・トレイルランナー
成瀬亮富士山写真家
田部井進也一般社団法人田部井淳子基金代表理事、
クライミングジム&ヨガスタジオ「PLAY」経営
齋藤繁群馬大学大学院医学系研究科教授、医師、日本山岳会理事
吉本充宏山梨県富士山科学研究所 火山防災研究部 主任研究員
柿下木冠書家・公益財団法人独立書人団常務理事
菅田潤子富士山文化舎理事『富士山事記』企画編集担当
安藤智恵子国際地域開発コーディネーター
田中章義歌人
千葉達雄ウルトラトレイル・マウントフジ実行委員会事務局長、
NPO法人富士トレイルランナーズ倶楽部事務局長
松島仁静岡県富士山世界遺産センター 学芸課 教授(美術史)
大鴈丸一志・奈津子夫妻御師のいえ 大鴈丸 fugaku×hitsukiオーナー
有坂蓉子美術家・富士塚研究家
小川壮太プロトレイルランナー、甲州アルプスオートルートチャレンジ実行委員会実行委員長
飯田龍治アマチュアカメラマン
篠原武ふじさんミュージアム学芸員
吉田直嗣陶芸家
春山慶彦株式会社ヤマップ代表
中野光将清瀬市郷土博物館学芸員
久保田賢次山岳科学研究者
鈴木千紘・佐藤優之介看護師・2014年参加, 大学生・2015と2016年参加
松岡秀夫・美喜子さん夫妻「田んぼのなかのドミノハウス」住人
三浦亜希富士河口湖観光総合案内所勤務
石澤弘範富士山ガイド・海抜一万尺 東洋館スタッフ
大庭康嗣富士山裾野自転車倶楽部部長
杉本悠樹富士河口湖町教育委員会生涯学習課文化財係 主査・学芸員
松井由美子英語通訳案内士・国内旅程管理主任者
涌嶋優スカイランナー、富士空界-Fuji SKY-部長、日本スカイランニング協会 ユース委員会 委員長・静岡県マネージャー
岩崎仁合同会社ルーツ&フルーツ「富士山ネイチャーツアーズ」代表
門脇茉海公益財団法人日本交通公社研究員
渡邉明博低山フォトグラファー・山岳写真ASA会長
藤村翔富士市市民部文化振興課 富士市埋蔵文化財調査室 学芸員
勝俣竜哉御殿場市教育委員会社会教育課文化スタッフ統括
前田友和山梨自由研究家
杉山浩平東京大学大学院総合文化研究科 特任研究員 博士(歴史学)
天野和明山岳ガイド、富士山吉田口ガイド、甲州市観光大使、石井スポーツ登山学校校長
井上卓哉富士市市民部文化振興課文化財担当主幹
齋藤天道富士箱根伊豆国立公園管理事務所 富士五湖管理官事務所 国立公園管理官
齋藤暖生東京大学附属演習林 富士癒しの森研究所所長
池川利雄ノースフットトレックガイズ代表、富士山登山ガイド
松本圭二・高村利太朗山中湖おもてなしの会副会長, 山中湖おもてなしの会会員
関口陽子富士山フォトグラファー
猪熊隆之山岳気象予報士・中央大学山岳部監督
髙杉直嗣2021年御殿場口登山道維持工事現場代理人
羽田徳永富士山吉田口登山道馬返し大文司屋六代目
内藤武正富士宮市役所企画部富士山世界遺産課主幹兼企画係長
河野清夏フジヤマミュージアム学芸員
中村修七合目日の出館7代目・富士山吉田口旅館組合長・写真家
野沢藤司河口湖ステラシアター、河口湖円形ホール館長
三浦早苗ダイビング&トレッキングぴっころ代表
田部井政伸一般社団法人田部井淳子基金代表理事
橋都彰夫半蔵坊館長・わらじ館館長
上小澤翔吾富士登山競走実行委員会事務局
杉村知穂富士宮市教育委員会教育部文化課
河野格登山ガイド
鈴木啓悟富士山写真家
松山美恵山梨県富士山科学研究所自然環境科助手

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