−中尾さんは大月から河口湖への乗務を終えたばかり。乗務していた富士山ビュー特急は、ゴージャスでとても雰囲気のある車両ですね。
ありがとうございます(笑顔)。富士急行創業90周年事業の第1弾として昨年4月23日に運用が開始された3両編成の特別急行です。2号車、3号車は普通乗車券と特急券で乗車していただける自由席ですが、1号車はさらに特別車両料金900円のお支払いが必要な特別車両。“ホテルのラウンジのようなくつろいだ空間”をコンセプトにしているのでいろんなタイプの座席があったり椅子の座面がそれぞれ異なっていたり、自由席にはないウエルカムドリンクのサービスがあったりします。土日祝日は、甘いものを楽しんでいただけるスイーツプランもご用意しています。
−寄木細工の床や木製のシェードも印象的です。
デザインしてくださったのは有名な工業デザイナーの水戸岡鋭治さんです。初めて足を踏み入れたときには、こんな素敵な車内で働けるのか、という喜びや責任感が一気に押し寄せました(笑)。制服も水戸岡さんのデザインなんですよ。水戸岡さんのこだわりが細部にまで感じられますし、着ると気持ちが引き締まります。
−中尾さんはもうどれくらいアテンダントをしているんですか。
富士山ビュー特急がデビューした去年4月23日に私もアテンダントデビューしたので、そろそろ1年です。
−それまでも乗務員をされていたわけではないんですね。それ以前は、どんなお仕事を?
接客が好きで、社会人1年目から約2年間、箱根の老舗ホテルで働いていて、そのあとは御殿場のアウトレットで5年くらい働いていました。海外からのお客さまがどんどん増えているのを感じて、地元の富士吉田で何かおもてなしに関わる仕事ができないだろうか、と求人を探していたときに、富士山ビュー特急のアテンダントを募集しているのを見つけたんです。富士急行は富士山に一番近い鉄道ですし、お客さまをお迎えし、お送りする大切な役目でもありますから、やりがいを感じています。
−現在、富士山ビュー特急の専属アテンダントは何人ですか。
女性5人です。1号車の前で送迎、車内サービス、車内のカウンターや物販などのサービスの3つのポジションがあり、ローテーションを組んでそれぞれ担当しています。
−もう仕事にはだいぶ慣れましたか。
はい。運用が始まってすぐにゴールデンウイークでかなり慌ただしかったんですが、6月くらいに落ち着いて改めてアテンダントみんなでいろんなことを見直して・・。出身も接客のキャリアも違うので、それぞれの知識や経験を出し合いながら、どうしたらもっとお客さまに喜んでいただけるかをいつも考えています。
−中尾さんにとって、富士山はどんなものですか。
ずっとそこにあるものですから、生活の一部というか。子供の頃はあって当たり前と思ってましたし、見て感動することもほとんどなかったですね。ただ、富士山にまつわるお祭りごとは大好きで、毎年8月に行われる吉田の火祭りには小さいときからずっと行ってました。専門学校進学のために東京に出て、初めて地元に帰って富士山を見たときには、ああ、帰ってきた、という安心感がすごくありました。それから、地元にいるときには毎日富士山を見るようになりました。もちろん、今も毎日見ています。富士山って、毎日見ていても、見え方が違うんですよ。気圧の変化のせいなのか、すごく高く見えたり、低く見えたりする。あと、自分がすごく緊張しているようなときに富士山を見ると、なんだか応援されているような感じがしたり、頑張ろうと思ったりします。悩みがあっても富士山を見ると、富士山からしたらこんなの悩むことじゃないな、とか。いつも励ましてくれる存在です。
−富士山に登ったことはあるんですか。
頂上に登ったことはまだありませんが、中学校の行事で、北口本宮富士浅間神社から五合目まで行ったことはあります。自然がとても豊かで、他の山とは何か空気が違いましたね。
−一番好きな富士山を教えてください。
雪化粧の富士山も好きですけど、夏の夜、中心にポンポンポンと山小屋の灯りが見える富士山がすごくきれいで、私は一番好きですね。季節を問わず満月の夜に見える、月明かりに照らされたシルエットの富士山も、すごく神秘的で好きです。
−接客業にはいつ頃から興味があったんですか。
小さい頃は内気で人見知りだったんですが、高校の頃、将来何をやりたいのかなと考えたときに、好きな英語を使った仕事に就きたい、いろんな国の人とコミュニケーションが取れる空港で働けたらいいな、と思ったんです。いろんな人とすぐに打ち解けて話ができるようになったのは、東京のエアライン関係の専門学校に進学してからでした。
−実際に箱根の老舗ホテルで2年間、接客してみてどうでした?
レストランに配属されたんですが、いろんなお客さまと触れ合うことでたくさんの知識が得られたし、素晴らしいおもてなしをされる先輩から学んだこともたくさんありました。おもてなしの奥深さに気づかされた気がします。アウトレットではお客さまと接する時間は短かったので、もう少し長い時間、そしてより近いところでお客さまに接する仕事がしたい、という思いが強くなりました。
−お仕事をしているときに意識しているのはどんなことですか。
接客の基本であるアイコンタクトと気配りと笑顔を忘れないことです。常に“見られている”という意識も持っています。
−この1年で一番印象的だったことは?
お子さまのバースデー記念にスイーツプランを利用されたご家族がいらしたんです。たまたま私が車内サービスの担当の日で、ご予約の時点でバースデーでのご利用だということがわかっていたので、いつも車内に飾ってある折り紙の富士山に旗を立てて“ハッピーバースデー”と書いておいたんです。お子さまはまだ2歳で何もわからない状態でしたけど、親御さんがすごく喜んでくださって、後日、お礼のお手紙をいただきました。さりげないおもてなしが、お客さまに届いたことがすごく嬉しかったです。おもてなしにはマニュアルがあるようでないんですよ。予約の時点で何も情報がなくても、お客さまとの会話から得た情報を活かして、その場で対応を工夫することがとても多い。でもそれが接客の醍醐味でもあるし、毎日、違うお客さまに来ていただけるのはとても楽しいです(ニコニコ)。
−仕事が楽しくてしょうがない、という顔ですね(笑)。
(笑)。とにかく日本中、世界中からいろんな方たちに、この富士北麓地域に来ていただきたいんです。そしてきれいな富士山を見て、何かエネルギーをもらって帰って欲しいと思いますし、そのお手伝いをさせていただきたいですね。最近は中国からのお客さまも多いので、今、私は中国語を勉強しています。私たち日本人も、海外に行って日本語で話しかけられると嬉しいように、会話の中に少しでも母国語を加えられたら中国からのお客さまに喜んでいただけるんじゃないかと思って。タイからのお客さまも多いので、タイ語を勉強しているアテンダントや英語が得意なアテンダントもいます。一番は安全にお客さまを目的地にお連れすることですが、さらにお客さまに楽しく、ゆったりとお過ごしいただけるようなおもてなしをしていきたいですね。大月と河口湖を結ぶ45分はあっという間ですけど、お客さまにとって忘れられない思い出の1ページにできたら嬉しいです。
山梨県富士吉田市生まれ 地元の高校を卒業後、都内のエアライン関係の専門学校に進学。箱根の老舗ホテルで2年間働いた後、御殿場のアウトレットに5年間勤務し、昨年から富士山ビュー特急のアテンダントに。趣味はカフェ巡りとアクセサリー作り。